タングステンの板材ができるまで

— 鉱石から板になるまでの全体像 —

タングステンの板材がどのように作られるかを、鉱石から粉末冶金・圧延・仕上げまでをわかりやすく紹介します。

全体フロー

鉱石(重石)
選鉱(砕く・分ける)
湿式製錬(薬液で溶かす・不純物を除く)
APT結晶(アンモニウム・パラタングステン酸)
酸化タングステン(WO₃)
水素還元タングステン粉末(W)
粉末冶金(成形・焼結)
鍛造・熱間圧延
冷間圧延・中間焼鈍(厚み合わせと靭性確保)
仕上げ(矯正・研磨・検査)
板材出荷


1. 鉱石:出発点は「重石(じゅうせき)」

地中から採れるタングステン鉱石の主役は2種類。

  • 灰重石(かいじゅうせき)=Scheelite:CaWO₄
  • 鉄マンガン重石=Wolframite: (Fe,Mn)WO₄

これらを破砕して粒度を整え、比重差や浮選でタングステン濃度の高い精鉱にします(=選鉱)。


2. 湿式製錬:溶かして、選んで、もう一度固める

精鉱をアルカリ(Na₂CO₃やNaOH)で浸出し、**タングステン酸塩(主にNa₂WO₄)として溶液へ。
溶液を段階的に
不純物除去(沈殿・溶媒抽出・イオン交換など)し、清浄化します。
次にアンモニアを加えて
APT(アンモニウム・パラタングステン酸)**として結晶化・回収。


3. 焼成と還元:粉末をつくる

APTを焼成して酸化タングステン(WO₃)に。
続いて水素雰囲気中で段階還元
し、金属タングステン粉末(W粉)を得ます。
粉末の粒径・粒子形状・酸素量(O)が、後の焼結密度や加工性
を決めます。


4. 粉末冶金:固まり(ビレット)をつくる

得られたW粉を金型で成形し、焼結してビレット/スラブにします(通常は真空または水素雰囲気)。
必要に応じて**等方圧加圧(CIP)**を使い、均一な緻密化を狙います。


5. 熱間鍛造・熱間圧延:厚塊を板のタネへ

焼結スラブを高温(例:1,200℃以上の高温域)で鍛造し、内部欠陥を圧着・繊維化。
続いて熱間圧延で板の元厚に落としていきます。
タングステンは**融点3,422℃**と超高融点。溶解鋳造ではなく、粉末冶金→塑性加工が基本ルートになるのはこのためです。


6. 冷間圧延と中間焼鈍:厚みと靭性のバランス取り

ある程度まで薄くできたら、冷間圧延寸法精度・表面状態を整えます。
そのままだと加工硬化で脆くなるため、適宜中間焼鈍(真空や水素雰囲気での再結晶・応力除去)を挟み、さらに冷間圧延……という「圧延—焼鈍」のサイクルを繰り返して狙いの厚みに到達します。
用途に応じて、再結晶状態(柔らかく加工性◎)か、加工硬化を残した状態(強度◎)かを選びます。


7. 仕上げ:外観も中身も検査して完成

超音波探傷渦流探傷表面欠陥検査成分分析(O・C・N・金属不純物)等で品質を保証して出荷となります。
用途によっては**真空脱ガス(真空アニール)**でガス成分をさらに抜くこともあります。


よくある誤解と補足

  • 「溶かして鋳造」するの?
    いいえ。タングステンは超高融点で鋳造が現実的でないため、粉末冶金+塑性加工が王道です。
  • 「板厚はどこまでいける?」
    メーカーや設備により幅がありますが、**薄板(0.1mm級)〜厚板(数mm〜十数mm)**まで対応例があります。
  • 「脆いのでは?」
    粉末性状、焼結密度、圧延条件、再結晶粒の制御しだい。適切な中間焼鈍不純物管理で、靭性・延性は大きく変わります。
  • 「リサイクルは?」
    タングステンスクラップ(超硬くずや加工端材)は**再溶解ではなく再製錬(APTルートへ戻す)**が一般的。資源・コスト双方の観点で重要です。

用語メモ

  • 灰重石(Scheelite):カルシウム系のタングステン鉱石(CaWO₄)。
  • 鉄マンガン重石(Wolframite):鉄・マンガン系のタングステン鉱石。
  • APT(アンモニウム・パラタングステン酸):精製の要。これを基点に高純度化が進む。
  • 水素還元:WO₃を金属Wに戻す工程。粉末の性状決定因子。
  • 焼結:粉末を固めて密度を上げる熱処理。
  • 再結晶:加工で歪んだ結晶が高温で新しい等軸粒に生まれ変わる現象。粒度管理がカギ。

まとめ:板材品質は「粉末」と「温度史」で決まる

タングステン板の出来映えは、①粉末の質(粒子・不純物)、②焼結から圧延・焼鈍に至る温度と変形の履歴(温度史)、③検査とロット安定化で決まります。
鉱石からAPT、粉末、焼結、圧延、焼鈍、仕上げまで、どの段階も最終特性に直結。だからこそ「どの工程で何を狙い、何を抑えるか」を見える化することが、安定した板材づくりの近道です。