戦争とタングステン価格への影響

タングステンは、非常に硬く、耐熱性に優れた金属です。切削工具、超硬合金、金型、電子部品、炉内部品、放電電極、重金属部品など、製造業の幅広い分野で使われています。

一方で、タングステンは国際情勢の影響を受けやすい材料でもあります。特に戦争や紛争が起きると、タングステン価格が上昇しやすくなります。

その理由は、単に「材料が不足するから」だけではありません。軍需、供給国の偏り、輸出規制、物流費、為替、在庫確保の動きなど、複数の要因が重なって価格に反映されます。

1. タングステンは軍需と関係が深い材料

タングステンは、密度が高く、硬く、高温にも強いという特徴があります。

この特性から、防衛・航空宇宙分野でも重要な材料として扱われています。例えば、装甲材、弾体、航空機・ロケット関連部品、高温環境で使用される部品などに関係します。英国のIISSも、タングステンは硬さ・密度・耐熱性により、防衛用途で使われる重要な原材料の一つと説明しています。

戦争や紛争が長期化すると、防衛関連の生産や補給需要が増えます。すると、民生用途だけでなく軍需用途でもタングステンの引き合いが強まり、価格が上がりやすくなります。

特にタングステン市場は、鉄やアルミのように市場規模が大きい材料ではありません。そのため、軍需や備蓄需要が少し増えるだけでも、需給バランスに影響が出やすい材料です。

2. 中国への供給依存度が高い

タングステン価格を考えるうえで重要なのが、中国の存在です。

USGSの2025年版データでは、2024年の世界のタングステン鉱山生産量のうち、中国が約67,000トンを占めています。世界全体の生産量に対して非常に大きな割合であり、中国がタングステン供給の中心であることが分かります。

つまり、タングステンは「どこの国からでも簡単に同じ量を調達できる材料」ではありません。

戦争や国際対立によって、中国の輸出管理、通関、許認可、外交関係が変化すると、世界中のタングステン調達に影響が出ます。たとえ日本企業が直接戦争当事国からタングステンを買っていなくても、中国からの供給が絞られたり、手続きが厳しくなったりすれば、価格や納期に影響します。

3. 輸出規制や管理強化が価格を押し上げる

近年、タングステンは単なる工業材料ではなく、「戦略物資」として見られる傾向が強まっています。

ロイターは、2026年1月時点で、タングステン価格が中国の輸出規制、在庫の引き締まり、産業需要を背景に過去最高水準へ上昇したと報じています。

また、中国以外の生産は分散しており、すぐに代替供給を増やしにくいことも指摘されています。

さらに2026年4月には、ロイターが「中国の輸出規制と軍需の増加がタングステン価格を押し上げている」と報じています。

このように、戦争そのものに加えて、各国の輸出管理や経済安全保障政策が価格を動かす要因になっています。

4. 各国が備蓄を進めると、市場在庫が減る

戦争や地政学リスクが高まると、各国政府や大手企業は重要材料の備蓄を進めます。

タングステンもその対象になりやすい材料です。実際にEUは、中国依存を減らすため、タングステン、レアアース、ガリウムなどを共同備蓄の対象として検討していると報じられています。これらは防衛、半導体、再生可能エネルギーなどに関係する重要材料です。

備蓄は、国や企業にとってはリスク対策です。しかし市場全体で見ると、流通在庫が減る要因にもなります。

在庫が減ると、通常の製造業向けの材料も入手しにくくなり、価格が上がりやすくなります。

5. 物流費・保険料・リードタイムも上がる

戦争が起きると、材料そのものの価格だけでなく、物流コストも上がります。

海上輸送ルートが危険になれば、船は遠回りをする必要があります。航空便も燃油費や保険料の影響を受けます。さらに、輸出入時の検査や書類確認が厳しくなると、リードタイムも長くなります。

タングステン製品は、鉱石、APT、酸化タングステン、タングステン粉末、炭化タングステン粉末、超硬素材、加工品というように、複数の工程を経て製品になります。

そのどこか一つで物流が止まったり、輸出許可が遅れたりすると、最終製品の納期や価格に影響します。

6. 「今後もっと上がるかもしれない」という心理が価格を動かす

材料価格は、実際の不足だけでなく、将来への不安でも動きます。

例えば、次のような不安が市場に広がります。

「次回も同じ価格で買えるのか」
「輸出規制がさらに厳しくならないか」
「軍需向けが優先され、民生向けが後回しにならないか」
「在庫がなくなる前に確保した方がよいのではないか」

こうした心理が強まると、メーカーや商社が先回りして在庫を確保します。その結果、短期的に注文が集中し、さらに価格が上がることがあります。

つまり、戦争は実際の供給不足だけでなく、「不足するかもしれない」という警戒感によってもタングステン価格を押し上げます。

7. 超硬工具・タングステン部品にも影響する

タングステン価格の上昇は、タングステン粉末やタングステン合金だけでなく、炭化タングステン、超硬合金、切削工具、金型部品、耐摩耗部品にも影響します。

超硬合金は、炭化タングステンを主成分とする代表的な材料です。そのため、タングステン原料が上がると、超硬素材や加工品の価格にも反映されやすくなります。

また、タングステンは代替が簡単な材料ではありません。USGSも、炭化タングステンの代替候補としてモリブデンカーバイド、ニオブカーバイド、チタンカーバイド、セラミックス、サーメット、工具鋼などを挙げていますが、多くの場合は完全な置き換えではなく、タングステン使用量を減らす方向の代替にとどまるとしています。

そのため、価格が上がっても「すぐに別材料へ変更する」という判断が難しいケースが多くあります。

まとめ

戦争がタングステン価格に影響する理由は、主に以下の点にあります。

タングステンは防衛用途にも使われる重要材料であること。
中国への供給依存度が高く、輸出管理の影響を受けやすいこと。
各国が経済安全保障の観点から備蓄を進めやすいこと。
物流費、保険料、為替、リードタイムの影響を受けること。
そして、「今後さらに不足するかもしれない」という市場心理が働くこと。

タングステンは、一般的な工業材料でありながら、同時に戦略物資としての側面も持っています。

そのため、戦争や国際情勢が不安定になると、価格や納期が大きく変動する可能性があります。

当社では、タングステン、炭化タングステン、超硬部品、耐熱・耐摩耗部品などについて、国内外の協力メーカーと連携しながら、価格・納期・代替案を含めた調達提案を行っております。

材料価格が不安定な時期ほど、早めの見積確認、複数調達ルートの確保、必要数量の事前検討が重要です。

タングステン関連部品でお困りの際は、お気軽にご相談ください。